┃「子育て相談」に行くとよけい苦しくなってしまう
アダルトチルドレンの子育てに悩んでおられる方が、とても増えています。
私は、生きづらさ専門カウンセラーという仕事をしております。
そのため、アダルトチルドレンだと自覚されている方から、日々たくさんのご相談をお受けしています。
そのなかでも、子育ての相談が絶えることはありません。
「どんなに気をつけても子供をヒステリックに怒ってしまう」
「子供が私の顔色をやたらとうかがうようになってしまった」
「反抗されると、私のときは許されなかったのにと思って、ついカッとなってしまう」
「子供が学校の人間関係で苦しんでいる。きっと私の育て方のせいだ・・・」
アダルトチルドレンだと自覚されている方は、本来自分のことで精いっぱい。
とても苦しい日々を過ごされていますよね。
そこに子育ての苦労が重なってくる。
それは、とてもつもなくしんどいものです。
だから、子育ての専門家に相談してみる。
すると、いろいろ親身になって聞いてはくれるものの、
「完璧じゃなくてもいんですよ」
「子供はあなたが大好きなんだから」
といったアドバイスを受ける。
せっかくもらったアドバイスなのだけれど、なにか「ズレ」を感じてしまう。
そこで相談をしつづけていると、最後には、
「望んで産んだ子でしょ」
「母親なんだから頑張って」
「父親なんだから頑張って」
と激励される。
つまり「正論」を言われて逃げ場がなくなる。
相談したのに逆に追い詰められ、余計苦しむことになってしまうのです。
アダルトチルドレンで子育てをされている方のなかには、「子供がかわいいと思えない」という切実な悩みを抱えている方もおられます。
ただ、世間ではそのような考えは想定されていません。
というか、そう考えることすら許されない空気がある。
だから相談すると、
「たくさん抱きしめてあげれば自然と愛情が湧いてくるから」
といったお気楽なアドバイスをしてくる専門家までいるのです。
┃アダルトチルドレンの子育てで大切なものとは?
あなたは、アダルトチルドレンの子育てでお悩みの方でしょうか?
じつは私自身「アダルトチルドレンパパ」です。
典型的なアダルトチルドレンで、まさに子育て真っ最中の父親なんです。
その私の体験、そして多くの方のご相談をお受けしてきたなかで、どうしてもあなたに伝えたいことがあります。
それは、一般的な子育ての感覚と、アダルトチルドレンの子育ての感覚には、大きな「ズレ」があるということ。
そしてそれが見過ごされているということです。
つまり「一般的な子育て」でもっとも大切だと言われていることが、「アダルトチルドレンの子育て」でもっとも大切だとはかぎらないということです。
だから、アダルトチルドレンが子育ての相談をすると「ズレ」を感じてしまう。
そして逆に追い詰められてしまうことが多いのです。
では、アダルトチルドレンの子育てにおいてもっとも大切なものとはなんでしょうか?
やはり、子供に愛情たっぷりの言葉をかけてあげることでしょうか。
たくさん抱きしめてあげることでしょうか。
いつも笑顔で接してあげることでしょうか。
なにをしても褒めてあげることでしょうか。
優しく叱ってあげることでしょうか。
上手に慰めたり励ましてあげることでしょうか。
自由になんでも決めさせてあげることでしょうか。
どれも親として素晴らしい振る舞いですよね。
でも、アダルトチルドレンの子育にとってもっとも重要なのは、そのような「親としての素晴らしい振る舞い」ではありません。
アダルトチルドレンの子育てにとってもっとも重要なもの。
それは「我が子へのマナー」を守ること。
私はそう考えています。
社会のなかで生きていく上でも、必ず「マナー」が存在しますよね。
そしてその「マナー」は、「親子のあいだ」という小さな社会のなかにも存在している。
その小さな社会の「マナー」を守ること。
これこそが、アダルトチルドレンの子育てにとってもっとも重要なことだと私は考えています。
┃なぜ「我が子へのマナー違反」をしてしまうのか?
じつは、アダルトチルドレンは、この「我が子へのマナー」を守ることがとても苦手です。
それはいったいなぜでしょうか?
理由は大きく分けて二つ考えられます。
一つ目の理由は、私たちアダルトチルドレンは、他者との「適切な距離感」がわからないからです。
その結果、知らずしらずのうちに、ズイズイと「相手の陣地」に入ってしまう傾向があります。
これは当然、親子のあいだでも起こります。
親子だからといって急に「適切な距離感」が保てるようになるわけではありませんよね。
でも、子供が身近な存在すぎて、そのことに気づくのが難しい。
そのため、アダルトチルドレンは「子供の陣地」にズイズイと入っていってしまうのです。
それでなくとも、そもそも親というものは自分の子供に対して、
「私はこの子のことをなんでもわかっている」
と自然と考えてしまっていることが多いものです。
子供に対しての「所有感」をもっている。
それは私自身も、よく反省することです。
さらに子供が幼児のうちは、よほどのことがないかぎり子供から一方的に反論され、親が打ち負かされることもありません。
だから、親は安心して思いっきり「マナー違反」をしてしまいやすい状態なのです。
そのうえ「適切な距離感」がわからなかったとしたら・・・。
あっさりと「子供の陣地」に入り込んでしまう。
知らずしらずのうちに、「我が子へのマナー違反」をくり返してしまうのです。
┃アダルトチルドレンは「礼儀作法」を教わっていない社交家のようなもの
アダルトチルドレンが「わが子へのマナー違反」をしてしまう二つ目の理由。
それは、「我が子へのマナー」を自分自身が子供のころに体験してこなかったからです。
アダルトチルドレンだと自覚されている方は、基本的に「我が子へのマナー」をまったく守らない親に育てられたケースが多いでしょう。
だからこそ、アダルトチルドレンだと感じざるをえない人生を歩んできたわけですよね。
そして、そのままみずからも親となり、子育てをはじめる。
言うなればそれは、なんの「礼儀作法」も教わらずに華々しい社交界にデビューしたようなもの。
それどころか「嘘の作法」を教わり、それを嘘だと知らずに社交界で活躍することを期待されているようなものです。
それはとても過酷な状況です。
誰だって、体験していないものを実行することは難しいですよね。
教わってないものは、うまくできない。
それこそ真逆のことを教わってきたのなら、うまくできなくて当然でしょう。
そのために、無自覚のうちに「我が子へのマナー違反」をする結果になってしまうのです。
┃あなたは「ひどい親」なのか?
ここまでお読みいただいて、もしかするとあなたは落ち込んでしまったかもしれません。
「私は、我が子へのマナー違反をしていた・・・」と。
そして「私はなんてひどい親なんだ・・・」と、ご自分を責めてしまったかもしれません。
たしかに、我が子をかわいいと思えばこそ、そう感じてしまいますよね。
でも、私は断言します。
あなたは決して「ひどい親」ではありません。
なぜなら、あなたはそのようにみずからの「マナー違反」を認めて、なんとかして子供のために問題を解決しようとしているからです。
そして「アダルトチルドレンの子育て」という難しい課題を真正面から受けて止めて、真剣に苦悩しているからです。
あなたは、もしかすると自分の親から多くの「マナー違反」を受けてきたかもしれません。
そのために子供の頃から、絶えず苦しい人生を強いられてきた。
ずっと一人で耐え忍んできた。
ありえないほどつらい思いを、たくさんたくさんしてきた。
にもかかわらず、あなたは人生を投げ出さずに今日まで生き抜いてきた。
そして、子育ての苦しみを親のせいにせず、自分の責任として引き受けて、今こうしてこのコラムを読んでいる。
子供のために、自分が変わろうとしている。
子供のために、自分の過去に勇敢に立ち向っている。
そのあなたが「ひどい親」であるわけがない。
あなたは間違いなく「強い親」です。
子供のために人生最大の難関に立ち向かう「強い親」です。
私はそう断言します。
┃「我が子へのマナー」の基本姿勢
ではじっさいに、私たちアダルトチルドレンが「我が子へのマナー」を守るためには、どうすればいいのでしょうか?
「子供の陣地」に入るなと言われても、なにをどうしていいのかわからない・・・。
たしかにそうですよね。
「適切な距離」をとれと急に言われても、なかなかすぐに実行できるものではありませんよね。
そこで「我が子へのマナー」のもっとも基本的なポイントについてお伝えしたいと思います。
「我が子へのマナー」の基本姿勢。
それは「アダルトチルドレンの子育ては、腰が引けているくらいが丁度いい」ということ。
どういうことでしょうか?
たとえば、親が子供の役に立とうとするとき。
どうしても、なにを「してあげる」のがよいかと考えますよね。
それが「親の習性」です。
私も親として、いつもそう考えています。
ただし、アダルトチルドレンにとってこの「親の習性」がくせものなのです。
なぜなら、アダルトチルドレンは、なにかを「してあげる」と、ついついやり過ぎてしまう。
のめり込んでしまう。
視野が狭くなってしまう。
そのため、いともかんたんに「子供の陣地」に入ってしまうのです。
やればやるほど「我が子へのマナー違反」をしてしまうのです。
だから重要なのは「してあげる」ことよりも、よけいなことを「しない」ことです。
これは、「なにもしてあげる必要がない」という意味でないことは、あなたもご理解いただけると思います。
そうではなくて、「してあげる」ことよりも余計なことを「しない」ことをまず考える。
優先順位を変えるということです。
つまり「腰が引けた状態」で子育てをするということ。
それが「我が子へのマナー」の基本姿勢です。
┃「してあげる子育て」はとてもレベルの高い子育て技術
私がこのような意見を述べると必ず、
「そんな姿勢は親として無責任だ」
「子供にそこまで気をつかってどうする」
「そんな他人行儀な子育てじゃ、子供がかわいそうだ」
と、のん気なことを言ってくる人がいます。
そのような人は、「我が子へのマナー」を自然と身につける環境で生きてこられたか、「我が子へのマナー」を自分が破っていることに気づいていないかのどちらかです。
聞き流してしまって大丈夫です。
「腰が引けた状態」というのは、決して「消極的」という意味ではありません。
むしろ子育てに「積極的」であるからこそ、前のめりにならないように「腰を引く」ように注意するということです。
たしかに「してあげる」ことを優先する子育ては、理想的に見えますよね。
愛情たっぷりの言葉を上手にかけてあげる。
たくさん抱きしめてあげて、いつも笑顔で接してあげて、上手に褒めてあげる。
優しく叱ってあげたて、上手に慰めたり励ましてあげる。
子供もきっとうれしいですよね。
ただ、このような「してあげる子育て」は、一般的に見ても「とてもレベルの高い子育て技術」だということは知っておいていただいた方がいいでしょう。
ましてや、私たちアダルトチルドレンは自分がこのようなことをしてもらった経験がありません。
だから、やるとしたら「見よう見マネのぶっつけ本番」になります。
つまり、芝居未経験の人が台本だけ渡されて、稽古もなしに舞台の本番に上がるようなものです。
できない方が自然なのです。
だから、アダルトチルドレンの子育てにとって重要なのは、まず腰を引いて「我が子へのマナー」を守ること。
それを守ったうえで「してあげる」ことがあれば、させてもらえばいい。
私はそう考えています。
┃私自身の戒めのためにも
ここまでアダルトチルドレンの子育てにとって重要なこと、そして「我が子へのマナー」を守るための基本姿勢についてご説明させていただきました。
この基本姿勢がとても大事であり、私も日々それを念頭に入れて子育てをしています。
私たちアダルトチルドレンは、「嘘のマナー」をたくさんこの身に仕込まれてきました。
だから、子供のためによかれと思ってやってあげたことが逆効果になる可能性も高い。
そして、子供の嫌がることを、自然に、しかも軽やかにやってしまう可能性も高い。
だから前のめりにならなくていい。
それよりもまずはフラットに自分の身を置く。
じっくり眺める余裕をつくることが、最優先になると思います。
次回から、「我が子へのマナー」について、具体的にどんなマナーを守ればいいのかを詳しく連載していきたいと思います。
と言っても、高いところから偉そうに「これがマナーですよ!」とお説教をさせていただくつもりは毛頭ありません。
申し上げましたとおり、私も子育て真っ最中の身。
試行錯誤をつづけながら、なんとか我が子に迷惑をかけないよう、必死になって子育てをしています。
だから、このコラムは私自身への戒めでもあるのです。
「人様にマナーを語らせていただく以上、自分がマナー違反をすることのないよう気をつけよう!」と。
あなたとともに、アダルトチルドレンの子育ての苦労を少しでも分かち合えたらと思っております。
それによって、あなたの子育てがほんの少しでも楽になるのなら、とてもうれしいです。
そしてなにより、あなたのお子さんが心穏やかになられたのなら、心から幸せに思います。
アダルトチルドレンの子育てを支える会会長
生きづらさ専門カウンセラー
しのぶ かつのり