我が子へのマナー第12回

インナーチャイルドという「一冊のファイル」と向き合おう!

この記事では、アダルトチルドレンパパママさんが、インナーチャイルドを子育てに活かす方法をご紹介します。

もう少し正確に言うと、インナーチャイルドという「一冊のファイル」と上手に向き合うと、子育てにとっても役に立つんです。

そうなんです。

インナーチャイルドを「一冊のファイル」に見立ててみようというのが、今回ご紹介する方法の特徴です。

といっても、じつはインナーチャイルドという言葉自体、いろいろな意味で使われています。

なのでまずは、インナーチャイルドの意味からしっかり説明していきますので、ご安心ください。

さらに、インナーチャイルドという一冊のファイルが「子育てにもたらす問題点」をご紹介します。

これは意外と知られていないので、ぜひあなたに知っていただきたいです。

そして、具体的にインナーチャイルドという一冊のファイルを「子育てに活かす方法」もご紹介。

そのさいに、インナーチャイルドと向き合う「3つの注意点」についても詳しく解説します。

どうぞ最後までお読みいただき、ぜひあなたの子育てに役立てていただければと思います。

そもそもインナーチャイルドって?その意味の移り変わり

カラフルなシャボン玉と子供の後ろ姿の写真

そもそもインナーチャイルドってなんでしょうか?

現在では主に、

<1> 幼い頃の心の傷

<2> 本当の自分

といった意味で使われています。

自分の中にある、「弱くて無垢な子供のような側面」と考えるとわかりやすいと思います。

インナーチャイルドという言葉自体は、1970年代から、児童療法やセルフセラピーのなかで使われはじめました。

もともとの出所が深層心理で有名なユング心理学であったり、アートセラピーに使われていたなど、この頃は、だいぶ神秘的なイメージのものでした。

1980年代に入ると、機能不全家族という考え方との相性のよさから、アダルトチルドレンの回復に積極的に取り入れられるようになってきました。

この頃になると、「親から受けた過去の心の傷」といった、現実のことがらとしての側面が強くなります。

やがて、1990年代には、アメリカの人気自己啓発家ジョン・E・ブラッドショーが使用して、さらに広く知られるようになりました。

このときに、ブラッドショーは、心の傷を負った「過去」を、本来記憶がないはずの受胎の時期まで広げたため、ふたたび神秘的なイメージが強まります。

現在でも、インナーチャイルドという言葉を、現実よりの意味で使う人と、神秘よりの意味で使う人がいるのは、このような移り変わりを経たためでしょう。

▼参考文献
Wikipedia「Inner child」

以前、カウンセラーさんが集まる会で、二人の「インナーチャイルド療法」の専門家がおられました。

お二人とも同じ「インナーチャイルド」という言葉を使って会話しているのですが、まったく噛み合っていないということがありました(笑)

じっさいGoogleで検索してみても、WEBサイトによって説明されている内容にけっこう差があります。

カウンセリングの現場でも、ご相談者様がおっしゃる「インナーチャイルド」の意味は統一されていません。

そこで、このコラムのなかでは、「親から抑圧された子供のころの自分」といった意味合いで使っていきたいと思います。

ちなみに、私自身は、インナーチャイルドという言葉をまったく使いません。

長年、生きづらさ専門カウンセラーとして2,000本近いコラムやエッセイを書いてきましたが、インナーチャイルドについて書いたのは、今回がはじめてです(笑)

まあ、それくらい「記号」を使うことには、私は慎重でございます。

一度使った「記号」は、そうかんたんに消し去ることはできず、人を「被害者」という立ち位置に固定しやすくしてしまいますから。

なので今回も、ちょっと他の人たちとは違う「インナーチャイルド」との向き合い方を、ご紹介することになると思います。

インナーチャイルドと子育ての問題点

子を見て悲しい表情を浮かべる母親の写真

まず、ちょっとネガティブな話から。

インナーチャイルドという言葉を好んで使う方たちのなかには、子育てに悪影響が出ているケースがあるんですね。

先に、それをお伝えしたいと思います。

あなたは子育てをしていると、子供の頃の苦しかった体験と我が子を重ねてしまこと、ありませんか?

「傷つけちゃったかな?」

「個性を抑えつけちゃったかな?

「あのときの私と同じ思い、させちゃったかな・・・」

と、すぐに心配になる。

「アダルトチルドレン子育てあるある」ですよね。

私にもよくあります。

インナーチャイルドという言葉は、これを助長してしまうことがあるんです。

幼い頃の苦しい感情や記憶、抑圧された苦しさが「インナーチャイルド」という言葉のなかに、一つにまとめられている。

言ってみれば「一冊のファイル」にまとめて入れられている。

だから、とてもスムーズに、目の前にいる我が子に自分の感情や経験を重ねやすくなっているのです。

つまり、「過去の自分」と「子供の現在」を混同しやすくしているということですね。

「子供を見ていると、私のインナーチャイルドを見ているようで・・・」と、おっしゃる方も少なくありません。

私もアダルトチルドレンパパとして、とてもよくわかります。

ただ、その混同が「いき過ぎ」になってしまったら、自分はもちろんのこと、なによりお子さんにとってよくありませんよね。

インナーチャイルドという言葉は、アダルトチルドレンの子育てにおいて、「過去の自分」と「子供の現在」を重ねやすくしてしまっている。

そんな問題点があるということ、知っておいていただければと思います。

インナーチャイルドを子育てに活かす方法

リビングで笑顔で並ぶ両親と3人の小さな子供たちの写真

では、どんなふうにインナーチャイルドを子育てに活かせるでしょうか?

じつは、インナーチャイルドという「一冊のファイル」は、ある区別をするために使うと、とっても役に立ちます。

それは「親の人生」と「子の人生」を区別するためです。

子供に対して、

「傷つけちゃったかな?」

「個性を抑えつけちゃったかな?」

「あのときの私と同じ思い、させちゃったかな・・・」

と自分のインナーチャイルドを重ねそうになったら。

「私とこの子は別人」と考えてみる。

つまり、自分のインナーチャイルドという「一冊のファイル」に、この子の人生がすべて入るのかと考えてみるのです。

先ほどの問題点のときと、逆の使い方をするわけですね。

我が子の人生は、親である自分とは最初から最後まで違っています。

生まれた時代から遺伝子から死にぎわまで、なにからなにまで「別物」です。

たしかに「似ている」ところはあるかもしれませんが、決して「同じ」ではありません。

それを勝手に「親の人生のほんのいち時代」に当てはめてしまうのは、親の傲慢なのかもしれません。

あえてストレートに言えば、自分のインナーチャイルドという「小さなファイル」と、子供の人生という「壮大なファイル」を重ねてしまうのは、お子さんに対して失礼にあたるのではないでしょうか?

とはいえ、やっぱり重ねてしまいますよね。

私も、やっぱり重ねてしまいます。(苦笑)

今でも、そうしてなんども「あのときの私と同じ思い、させちゃったかな・・・」と過度な心配をしてしまうことがあります。

アダルトチルドレンにとって、自分のインナーチャイルドという「一冊のファイル」は、人生に大きな影響をもたらしているものですからね。

だからこそ、決して我が子には同じ思いをさせたくないと感じるのは当然中の当然のことだと思います。

それでも、お子さんのことを本気で思えばこそ、その「一冊のファイル」の使い方を変えてみる。

インナーチャイルドを、お子さんの人生に重ねるためでなく、お子さんの人生とハッキリ区別するために使ってみるのです。

親は親の人生を歩み、子は子の人生を歩んでいる。

そのことを忘れると、親はあっという間に子供の「陣地」にズカズカと入り込んでしまいます。

人との距離感がわからない私たちアダルトチルドレンパパママであれば、なおさらそうですよね。

インナーチャイルドという「一冊のファイル」は、そのことに気づかせてくれるんですね。

子供には自分で回復する力が備わっている

子供たちはそれぞれ、自分で人生を突破する力をもっています。

傷つきっぱなしでもなければ、抑えつけられっぱなしでもありません。

自分のインナーチャイルドと我が子を重ねてしまうのは、そんな「子供の突破力」を信頼していないことになってしまうでしょう。

親がどんなに気をつかっても、一歩外に出れば、子供もどこかで必ず心に傷を負ってしまいます。

本来の自分の性質を否定されたり、抑圧もされるでしょう。

それは避けられません。

親自身が、それをしてしまうこともあるでしょう。

重要なのは、そんなときに、子供がみずからの「突破力」を引き出せるようにすることですよね。

そのサポートをしつづけることが、親の役目の一つだと私は考えています。

そのために、まずは子供のなかにある「突破力」を信頼する必要があります。

子供への信頼感を親のなかに養っていくためにも、「自分の感情や記憶」と「我が子」が同化しないよう、インナーチャイルドという「一冊のファイル」を上手に活用していきたいですね。

インナーチャイルドと向き合う「3つの注意点」

アダルトチルドレンが子育てをするうえで、インナーチャイルドがもたらすメリットを見てきました。

ただ、最初にも述べたように、注意しなければならない点もあります。

ここでは、アダルトチルドレンパパママがインナーチャイルドと向き合う上での、3つの注意点をご紹介したいと思います。

1.幼い頃の自分、本来の自分を「美化」し過ぎる

2.「無駄な記憶」を掘り起こし苦しみが悪化する

3.「なんでもインナーチャイルド療法で解決しよう」とするカウンセラーがいる

一つずつ解説していきますね。

まず<1>の、幼い頃の自分、本来の自分を「美化」し過ぎる。

これは、自分の子供時代を、弱弱しく、無力で、純真無垢なものだと思いすぎてしまうということです。

このような自己イメージは、「やられっぱしで当然」という感覚や「無力感」をあおってしまうことが多いです。

さらには、家族への恨みも助長することになります。

つまり、人生全般において、自分を「被害者の立場」にしばりつけ、身動き取れなくさせてしまうのです。

とはいえ、私もそうですが、たしかに幼い頃から家庭のなかでボロクソにされ、とんでもない目にあわされましたよね。

あなたもきっとそうでしょう。

「被害者の立場」で考えて当然の経験をしてきたのです。

だから今は無理せず、まずはこのような「自分を美化してしまう」という注意点があるということだけ知っておいていただければ充分です。

次に<2>の、「無駄な記憶」を掘り起こし苦しみが悪化する。

これは、アダルトチルドレン専門のセラピーやカウンセリングで経験したというお話をよくうかがいます。

とくに「母親との関係」を無理やり聞きだされ、それが原因だと特定され、子供の頃の親子関係を再体験させられたというものです。

あのとき、こうやって心の傷をつけらた。

あのとき、こうやって本来の自分を汚された、と。

このケースで登場するのが、<3>の「なんでもインナーチャイルド療法で解決しようとするカウンセラー」です。

なにを相談しても、結局は「インナーチャイルド」に話をもっていかれる。

インナーチャイルドが「原因」だと特定される。

そして「インナーチャイルド療法」をすすめられるというパターンです。

もちろん、このようなカウンセラーさんも、ご相談者さんを苦しめようと思ってやっているわけではありません。

それどころか、このようなカウンセラーさんには、純粋で優しいタイプの人が多いです。

自分がインナーチャイルド療法で楽になれた。

だから、他の人にも同じ体験をさせてあげたい。

誰もがきっと、この方法で楽になれると純粋に信じているのです。

そして、じっさいに楽になれる人もいるでしょう。

ただ、生きづらい「原因」を一つに特定することは、多くの方にとっては非常に危険な行為になりかねません。

▼参照記事
生きづらい原因は脳の扁桃体?
生きづらさとはいったいなにか?
生きづらさの原因と、それを特定しようとすることデメリットについて詳しく解説しています。

それに、カウンセラーが原因を「過去」のせいにしすぎると、ご相談者さんが、現在の自分の責任について考えなくなってしまうケースもあります。

カウンセラー側もご相談者さんも、はじめから「原因は過去の親子関係にある」と決めてかかるのは、記憶の捏造にもつながりやすいので、とても注意が必要なんですね。

ただこれも、子供時代の記憶の捏造を、いちがいに悪いとは言い切れないのが難しいところです(苦笑)

このコラムの中で考察すると長くなりますので、ここでは、子供時代の記憶の捏造を肯定的にとらえた考えと、否定的にとらえた考えとして、二つの書籍をご紹介しておくにとどめておきたいと思います。

▼肯定的にとらえたもの
ボリス・シリュルニク「心のレジリエンス 物語としての告白」

▼否定的にとらえたもの
ウルズラ・ヌーバー「<傷つきやすい子ども>という神話」

つまり、人の悩みや苦しみは、かんたんに「特定」したり「解決」したりできないもの。

あらゆる複雑な要因がからみあって、その悩みや苦しみが生まれている場合が多いのです。

だからインナーチャイルドと向き合うときにも、ぜひ今ご紹介した3つの注意点を、覚えておいていただけばと思います。

インナーチャイルドは「脳の扁桃体」のこと?

幻想的な空間にいる少女

インナーチャイルドは、当然ですが、実体があるわけではありません。

そこに「チャイルド」という実体を与えるかのような単語が使われているところに、難しさがあるのかもしれない。

今回、このコラムを書いていてそう感じました。

本当に触れられそうな気がするが、決して実体化しないもの、という扱いの難しさですね。

その「ホログラムのようなリアリティ」が、他の概念よりも思いのほか強い影響を本人に与えている気がするのです。

私は、「生きづらい人は脳の扁桃体をいたわろう」とよくお伝えしています。

たまに「扁桃体はインナーチャイルドのことですか」と聞かれることがあります。

インナーチャイルドという言葉の意味がいろいろあるので、答えにくい質問ではあるのですが、「違いますよ」とお答えするようにしています。

私は扁桃体という言葉を、自分の感受性、つまり「変えられない自分」のメタファー(隠れた例え)として使っています。

感受性ですから、生まれついてのもので、そうかんたんに変えられないもの。

インナーチャイルドのように、癒したり、浄化したりできないもの。

消し去れず受け容れざるをえないもの。

そんなメタファーとして、「扁桃体」という言葉を用いています。

変えられないなら、いたわって生きていくしかない。

その覚悟もって生きる人生を「扁桃体をいたわる生き方」と表現してるんですね。

実体があるぶん、いたわるイメージがつきやすいですよね。

▼参照記事
生きづらい人は「扁桃体をいたわる生き方」を身に着けよう!
扁桃体をいたわる生き方について詳しく解説しています。

インナーチャイルドという言葉も、どんなメタファーとして使うのかによって、大きくかかわり方が変わってくるのではないでしょうか?

もちろんそれは、インナーチャイルドのという言葉にかぎらないことですが、「ホログラムのようなリアリティ」があるぶん、とくにそのふり幅が大きいと思います。

せっかくですからひこのコラムをお読みいただいたあなたには、インナーチャイルドという言葉を有効に使っていただきたいと思います。

「自分の感情」と「我が子」とを同時に冷静に眺めるトリガー。

そんなふうにとらえていただけたらいいなと思っています。

アダルトチルドレンの子育てを支える会
しのぶかつのり

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