「アダルトチルドレン」の意味は時代とともに変わっている
アダルトチルドレンってどういう意味でしょうか?
「大人子供」なんて、なんだかおかしな言葉ですよね。
アダルトチルドレンとは、現代では、一般的に次のように言われています。
子どものころに親や家族から受けた「ひどい体験」によって、大人になっても「生きているだけでつらい」と感じるような、さまざまな苦しみを抱えている人・・・。
つまり「自分の苦しみの原因が親にある」と自覚している人のことです。
ただ、もともとは、アルコール依存症の親のいる家庭で育った人を指す言葉として、アメリカで広まりました。
それがやがて、親からの虐待や育児放棄、極度の過干渉といった、さまざまな「ひどい体験」を含むようになったのです。
▼参考文献
Wikipedia「アダルトチルドレン」
そのため、日本ではすっかり「自分の苦しみの原因が親にある」と自覚している人として定着しています。
それは、アダルトチルドレン専門のセラピーやカウンセリングの影響も大きいと私は考えています。
ご相談者様のお話をうかがっていると、セラピストやカウンセラーの方から「あなたはアダルトチルドレンです」と言われる方も多いようです。
ただ、アダルトチルドレンは、当然のことながら医学の診断名ではありませんよね。
明確に統一された判断基準もありません。
自分で「アダルトチルドレンだ」と名乗れば、そうなってしまうものなのです。
私が、自分の苦しみの原因が親にあると「自覚している人」と、まわりくどい言い方をしているのは、そのためです。
アダルトチルドレンという名前は「買い物袋」のようなもの
そう考えると、アダルチチルドレンは一つの「記号」に過ぎないというのが私の考え方です。
言うなれば、さまざまな苦しみに対処しやすいように一つにまとめた「買い物袋」のようなものだということです。
逆に、そう考えないと危険だということを日々実感しています。
なぜなら、「私はアダルトチルドレンだから」という物語にどっぷりつかって抜けられなくなるからです。
なにか苦しいこと、つらいことがあるたびに、
「私はアダルトチルドレンだから」
「親にあんな育てられかたをしたから」
と考え、被害者の立場から抜けられず、そこから身動きが取れなくなる。
人生を変えていく推進力が奪われていってしまうのです。
それを突破する困難さは、カウンセリングの現場にいると痛感します。
もちろん、アダルトチルドレンという「記号」を知ることで、いったん楽になる人が多いです。
ああ、自分だけではなかったのだ、と。
ただ、それを「いったん」にとどめておかないと、ズルズルと「アダルトチルドレン沼」にハマっていくケースが非常に多いんですね。
だから、アダルトチルドレンとは、自分が人生を変えていくために「いったん」その苦しみをまとめておく「買い物袋」ぐらいに考えておくのがいいと私は考えています。
それが、机上の理想論ではなく、アダルトチルドレンと自覚されている方たちと一緒に最前線でそのドロにまみれて苦闘している人間の心からの実感です。
新説「アダルトチルドレンの意味」
そこでこのさい、アダルトチルドレンという言葉の意味を、もっと有意義なものに置き換えたらいいのではないか?
それが私の提案です。
じっさいに数年前から、私はアダルトチルドレンという言葉を、「勇敢な人」という意味で使っています。
だって、とてつもなく苦しい特徴をいくつも抱えながらも、人生を投げ出さずに生きてるんですよ。
しかも、「生きることがつらい」と感じながら、それでも命を絶たずに生きつづけている。
さらに、その苦しみは他人からは見えないから、たった一人でそのとてつもなくしんどい状況を日々乗り切り、生き抜いている
毎日そうして、生きることそのものとの闘いに挑んでいる。
これを「勇敢」と言わずに、他になんと言えばいいのでしょうか?
アダルトチルドレンとは「勇敢な人」。
これからも私はその意味でアダルトチルドレンという言葉を使っていきますので、そのつもりでこの先を読み進めてくださいね。
アダルトチルドレンの特徴、それは「あっちに行けば苦しい、こっちに行ってもつらい」
では具体的に、アダルトチルドレンの「生きているだけでもつらい」という状態とは、どのようなものがなのでしょうか?
主に、アダルトチルドレンには次のような特徴があります。
・自分の感情や欲求を抑え込んでしまう
・他人からの承認や評価を猛烈に求めてしまう
・自信がない(のに自信があるようにふるまってしまう)
・人との距離感がわからない
・感情のコントロールが苦手(怒りの爆発や突然の号泣)
・依存心が強い(ドロ沼の恋愛関係におちいりやすい)
・人に尽くしすぎてしまう
・安心感を得られない
などなど・・・。
こうやって読んでいるだけだと、一つひとつは「なるほど、そうか」というていどの悩みに見えるかもしれません。
ただ、この特徴をすべて抱えている当の本人は、本当に大変です。
とくに安心感を得られないというのは、言葉でいうほど生易しい状況ではありませんよね。
ご相談者様がよくおっしゃるのが「風呂に入っていても、布団に入っていても緊張する」というものです。
過酷です。
これらの特徴が日常生活の、ありとあらゆるところに張り巡らされているわけですから、あっちに行けば苦しい、こっちに行っても苦しいということの連続。
まさに「生きているだけでもつらい」という状態におちいってしまうのです。
アダルトチルドレンが育った環境、それは原因というより「〇〇」
アダルトチルドレンは、育った家庭環境で「ひどい体験」をした人のことでしたよね。
その育った環境の特徴として、親がアルコール依存症だったり、身体への虐待や育児放棄、過干渉があげられます。
また、感情を極度に抑えつけられたり、高学歴や有名企業への就職といった過剰なプレッシャーをかけられた人が、自分を「アダルトチルドレンだ」と感じるケースが増えています。
かといって、このような家庭環境を「唯一の原因」と言い切ってしまうことも、やっぱり危険だと言わざるをえません。
先ほどと同じ、「こんな家庭環境で育ったから」というドロ沼にハマって抜けられなくなるからです。
たしかに、その家庭環境で育ったことも、大きな「原因」の一つでしょう。
それは否定しません。
でも、もともとアダルトチルドレンの特徴(素質)を少なからずもっていたかもしれません。
また、じつは家庭以外の環境、たとえば学校や習いごと、恋愛経験などが、その特徴を引き出してしまったのかもしれません。
これはどうがんばっても特定できないことでしょう。
であれば、ドロ沼にハマる危険をおかしてまで、家庭環境という「原因」にこだわることは避けた方がいいと思うのです。
そこでまた提案なのですが、アダルトチルドレンにとって、家庭環境は「原因」ではなく「要因」と言い換えるようにしてみてはどうでしょう。
「原因」という言葉には、唯一のものという感じが含まれていますが、「要因」ならばいくつかあるうちの一つと感じらると思いませんか?
じっさいに、カウンセリングでも「原因」を「要因」と言い換えることで、家庭環境(親)へのこだわりが和らいだという方が多くおられます。
もちろん、その言い換えをするだけでも、当のご本人にとっては大変なんですけどね・・・。
ただ、「要因」に変えることで、「いったん」親のせいにして、人生を仕切りなおせる。
その「要因」だけにこだわる必要もないし、他の「要因」をあたることもできる。
アダルトチルドレンにとって、「唯一の原因」を特定しようとすることは、ことのほか危険であること、伝わったなら幸いです。
アダルトチルドレン問題でよく耳にする「機能不全家族」とは?
アダルトチルドレンの育ったような、安心できない家庭環境。
それは「機能不全家族」と呼ばれています。
これもアダルトチルドレン問題で、よく使われる「記号」ですね。
便利ではありますが、やはり、ぜひ注意して接していただきたいと思います。
その「機能不全家族」のなかで、アダルトチルドレンは、6つの立ち位置を演じるはめになると言われています。
例えば、英雄タイプは、家族の誇りになるために努力しすぎるタイプです。
生贄(いけにえ)タイプは、トカゲの尻尾のような扱いをうけ、家族の問題を押しつけられるタイプです。
いない子タイプは、存在感が薄く孤立するタイプ。
慰め役タイプは、落ち込む家族の相談にのり、助けてあげるタイプ
ピエロタイプは、その名のとおり、険悪な家族の雰囲気を笑顔でおちゃらけて和ませようとするタイプ。
援助者タイプは、他人の世話を焼きすぎ、尽くしすぎてしまうタイプです。
▼参考文献
アスク・ヒューマン・ケア研修相談センター編「アダルトチャイルドが自分と向き合う本」
当然、これらの立ち位置を幼いころからになっていけば、その子どもは、自分の本当の感情や欲求を抑え込んで生きていくことになっていきます。
自分がこれらの立ち位置で手を抜けば、一気に家庭が壊れてしまう。
そんな直感のなか、常に緊張して過ごしている。
もちろん、これらの役割を一手にになうことになる、過酷な人もいます。
そして大人になっても、その立ち位置を離れることができず、人間関係で苦しんでしまう。
いえ、その立ち位置以外の立ち位置を知らないため、自分がどうして苦しんでいるのかすらわからず、追い詰められ、途方に暮れてしまうのです。
ただ、本当にしつこいようですが、これらのタイプ分けも「いったん」は楽にしてくれるけど、そのあとドロ沼にハマりやすくなることに一役買っていることは、付け加えておかなければなりません。
カウンセリングでも、
「私はアダルトチルドレンで、タイプで言うとヒーロー(英雄)とイネイブラー(援助者)です」
という自己紹介から会話を始める方も多くおられます。
そうなると、いざその立ち位置から脱け出そうとしても、多くの時間がかかるということだけはぜひ知っておいてください。
「機能不全家族」も「6つのタイプ」もあくまでも、悩みをあつかいやすく便利な「記号」として、上手に活かすことをオススメします。
アダルトチルドレン問題で見落とされていること
ここまでお読みいただき、いかにアダルトチルドレンという問題が複雑で、一筋縄ではいかないものかを実感していただけているのではないかと思います。
ただこれで終わりではなく、さらに難しい問題が起きています。
これは、今まで見落とされてきたことです。
それは「アダルトチルドレンも親になる」という当たり前のこと。
そして、そこで「子育てに苦しむ」という問題が多発しているのです。
アダルトチルドレン本人に焦点が当たってきたあまりに、その子育てになかなか光が当たってこなかった。
そのため、アダルトチルドレンだと自覚されている方たちは、今、とても苦しい状況に立たされています。
子育ての相談をしても、どこかみんなとズレている。
どんなに苦しいと訴えても「自分で望んで授かった子でしょ」と、正論でお説教されてしまう。
どんどんどんどん追い込まれていく。
その問題に光を当て、アダルトチルドレンパパママの子育てを応援するために、私はこの「アダルトチルドレンの子育てを支える会」を起ち上げました。
なぜなら、私もそのアダルトチルドレンパパの一人。
当事者だからです。
アダルトチルドレンの連鎖を、私たちの代で食い止める。
その理念のもと、現在は、ACパパママお茶会を中心に活動しています。
アダルトチルドレンを「本気」で克服するポイント
最後に、アダルトチルドレンを克服するとても重要なポイントをお伝えしたいと思います。
それは「立ち位置を変える」ということです。
考え方を変えたり、視点を変えるだけでは、なかなかアダルトチルドレンのもつ苦しみには太刀打ちできません。
だから「立ち位置」そのものを変えるのです。
それは、アダルトチルドレンを、みずからの意思で「やめる」ということ。
つまり、通常の意味でのアダルトチルドレンという「記号」を、自分から投げ捨てるということです。
そしてぜひ、アダルトチルドレンを「勇敢な人」という意味で使っていただきたいと思います。
これは理想論として言っているわけではありません。
「立ち位置を変える」というのは、そんな気軽に語れるほど楽なことではないからです。
「立ち位置を変える」とは、アダルトチルドレンの苦しみを消し去ってしまうことではありません。
その苦しみを抱えたまま生きる強さを身につけるということ。
その苦しみごと「私だ」と言い切って生きる道を、本気で見出すということなんです。
他のWEBサイトと言っていることが違うので、驚かれるかもしれません。
もちろん、私も、セラピーやカウンセリング、専門機関を頼ることは大切だと思っています。
私自身も、カウンセリングや生きづらい人のオンラインサロン、アダルトチルドレンの子育てを支える会を運営しています。
世の中には、たくさんの頼りになる専門家がいます。
ただもしあなたが、いろいろなセラピーやカウンセリング、専門機関を頼っても、どうしてもアダルトチルドレンの苦しみから逃れられなかったら。
「立ち位置を変える」という道が残されていることを、ぜひ思い出してください。
そして、くれぐれも無理をせず、慎重に、慎重に、その一歩を踏み出してみてください。
そのときもしこのコラムが、あなたのその「勇敢な一歩」をほんの少しでも支えることができるのなら幸いです。
アダルトチルドレンの子育てを支える会
しのぶかつのり