┃ゲーム依存・ゲーム脳の相談が増えている
「子供がゲームをやめない」
「夜中に隠れてゲームをしている」
「どんなにルールをつくっても破られてしまう」
最近、このようなご相談が増えています。
だからと言って「ゲームは危険!」と決めつける記事でないことは、最初に述べておきますね。
重要なのは予防策です。
ご相談が多いのは、中学・高校生のお子さんについて。
しかし、小学校低学年のお子さんにつていのご相談も決して少なくはありません。
ご飯も食べず、学校にも行かず、ゲームをしつづけようとする。
事態は深刻です。
お話を聴いていて、その状況の凄まじさに、私も同じ子をもつ親として胸を貫かれるような痛みを感じることも珍しくありません。
「うちの子はゲーム脳なのでしょうか・・・」
と悲嘆にくれる方もおられます。
そして親としてその事態を招いた責任を強く感じ、ご自身を責めている親御さんがたくさんいらっしゃるんです。
┃アダルトチルドレンパパママはルールの設定にとまどってしまう
ご自身をアダルトチルドレンだと自覚されているパパさんママさんは、家庭のルールを設定することが苦手な方が多いです。
なぜなら、ルールを設定することにとまどってしまうからです。
アダルトチルドレンパパママは、我が子に「自由な子に育って欲しい」という思いが強いという傾向があります。
自分がとても厳しく育てられた。
あれもダメ、これもダメと禁止されてきた。
その反動からか、
「この子には存分に自由を味わわせてあげたい」
と思っている方が多いのです。
そのため、ルールを一つ設定するだけでも「この子の自由を奪ったのでは?」と思い悩んでしまう。
お子さんがルールを守らないときも、強く言い聞かせることをためらってしまう。
アダルトチルドレンパパママは、「自由な子に育って欲しい」という思いと「ゲーム依存にさせてはいけない」という両極に、人知れず苦しんでいるのです。
その結果として、ゲーム時間などのルールがどうしても曖昧になってしまうことがあるのです。
┃ゲームは本当に危険なのか?
ではじっさいに、ゲーム(この記事ではコンピューターゲームのこと)そのものは、危険なのでしょうか。
一時期、ゲーム脳という言葉が流行りましたよね。
日本大学教授の森昭雄さんが書いた「ゲーム脳の恐怖(NHK出版)」がきっかけです。
テレビやケータイのゲームなどで長時間遊んでいると、脳の前頭前野の活動が低下すると警告を発し、話題になりました。
2002年に発売された本なのですが、いまだに「ゲーム脳」という言葉を親御さんたちから耳にします。
そして、2020年には香川県議会で「ネット・ゲーム依存症対策条例」が可決されました。
18歳未満の子をもつ親に「平日は60分、休日は90分」というゲームのプレイ時間を守らせる努力義務を課すものです。
▼じっさいの条例の内容はコチラ
香川県条例第24号
一方、実業家の佐藤航陽さんは、その著書「世界2.0 メタバースの歩き方と創り方(幻冬舎)」のなかで次のように述べています。
「近年も一部の自称・脳科学者が「ゲーム脳」というエセ科学めいたワードで親世代を脅し、子供たちからゲームを取り上げようとしています」
と、ゲーム脳の存在をいぶかしがります。
さらに佐藤さんはつづけます。
「大人たちがゲームやコンピューターを取り上げなければ、天才は学校に通わず朝から晩までどっぷり使い倒していたことでしょう。その子供たちは、エンジニアやゲームクリエイターとして大成功していたかもしれません。起業家になり、シリコンバレーで何百兆円というお金を稼ぎだしていたかもしれないのです」
(前掲書)
一見極端な意見ですが、従来の考え方を打破するために、あえて扇動的におっしゃっているのでしょう。
また香川県に住む親子が、先ほどの条例に対し「科学的根拠を欠いている」と訴訟を起こしています。
基本的人権が侵害されているというのが、主張の一つです。
参考文献
wikipedia「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」
私は、ゲーム依存におちいり苦境にあえいでいるご家庭を現場で目の当たりにしている立場です。
だからどうしても、そのバイアス(認知のかたより)がかかってしまいます。
ゆえに、少なくとも現代のゲームに、異常に人を惹きこんでしまうだけの魅力があることは、認めざるをえません。
いくらルールを決めても、それをかんたんに打ち破らせてしまう力があることはヒシヒシと実感しています。
そのうえで、家庭でルールを決めるということ以外の、
「ゲーム依存を予防する方法」
が、とても大切だと考えています。
次に、その具体的な方法をご紹介してみたいと思います。
┃ゲーム依存を予防する「世界間移動力」
私はゲーム依存を予防するためには、「世界間移動力」を身につけることが大切だと考えています。
なぜなら、ゲームをするというのは「別の世界」で生きるということだからです。
現代のゲームは、ネットワークでつながれています。
他のプレイヤーと会話し、通貨もあり売買もできます。
食事もできれば、ミュージシャンのライブもおこなわれます。
まさにゲームのなかに、臨場感にあふれた「別の世界」が存在するのです。
すべてのゲームがそのような空間ではありませんが、多かれ少なかれ、ゲームをしているあいだは誰もが「別の自分」になることができるのです。
もし、そちらの居心地のほうがよければ・・・。
私たちが現実だと感じている「リアルな世界」に戻ってきたくなくなるのは、当然のことでしょう。
そこで重要なになるのが「世界間移動力」です。
「世界間移動力」というのは、私の造語です。
「別の世界」と「リアルな世界」を移動する力。
これは「ゲームを中断する力」というよりも、「一つの世界にこだわらない力」だと言えます。
「別の世界」と「リアルな世界」、その双方に魅力や必要性があることを理解できる。
そして状況に合わせて、自在に無理なく「世界」を行き来できる力。
「別の世界」を、現実から隔離された逃避先としてではなく、「リアルな世界」とともに、自分が選べる選択肢の一つだととらえられるようにしていくこと。
そんな「世界間移動力」を身につけることこそが、ゲーム依存を予防できると私は考え、現場でも取り入れています。
┃子供の「世界間移動力」を高める方法
では、お子さんの「世界間移動力」を高めるためには、どうしたらいいでしょうか。
つまり、ゲーム依存を予防するためにはどうしたらいいのでしょうか。
それは、「お子さんと一緒に親もゲームをすること」だと私は考えています。
「リアルの世界」にも魅力や必要性があると感じられるようにすること。
それはすなわち、お子さんにとっては、自分の家庭が「帰ってくるに値する場所」なんだと思えるようにすること。
それが、お子さんのゲーム依存を予防する「基礎体力」になっていきます。
(それですべてが防げるわけではなく、あくまでも基礎体力です)
たとえば、お子さんが一人でゲームをしているとき。
親御さんは「リアルの世界」にいて、お子さんは「別の世界」にいます。
つまり、お子さんと親御さんは、別々の「世界」にいます。
それは、幼いお子さんにとってさみしいものではないでしょうか。
じっさい、親御さんが一緒にゲームしてくれたお子さんにゲームの感想を聴くと、
「パパが一緒にやってくれて楽しかった」
「ママがいてくれたからうれしかった」
と言います。
ゲームの感想を聴いているのに、親がそばにいてくれたことがうれしいと言う子が多いのです。
また、同じ「世界」のなかにいることで、親の言葉もお子さんの耳に届きやすくなります。
一緒にゲームをしているときに、
「1時間経ったから、いったん目を休めようか」
「そろそろご飯食べないと、せっかくの料理が冷めちゃうよ」
と言えば、いくらかお子さんも聞き入れやすくなります。
同じ「世界」にいるから、対話が成立しやすくなるのです。
一方、一人でゲームをしているお子さんに親御さんが声をかけても、お子さんにとってそれは、
「自分とは関係ない外の世界から聞こえてくる声」
に過ぎません。
飲み屋さんのテレビから流れてくる海外映画の英語のセリフよりも臨場感がない、まさに「他人事」なのです。
だから、親も一緒にゲームをすることが、ゲーム依存の予防につながりやすいのです。
つまり、お子さんと一緒に「別の世界」に行って、一緒に「リアルな世界」に帰ってくること。
それをくり返すことで、お子さんの「世界間移動力」の基礎体力がついてくるのです。
遊園地に行きたいというお子さんに、一人で行かせることはしないですよね。
一緒に行って、一緒に楽しみ、一緒に帰ってくる。
そのなかで、お子さんの「世界間移動力」が育まれていくわけです。
┃今後「別の世界」はよりリアルに増殖していく
ここまでのお話は、ゲームに限ったことではありません。
また、子供に限ったことでもありません。
今後、「別の世界」の数は、ゲームにかぎらずどんどんと増殖していくでしょう。
さらに、「別の世界」の臨場感もどんどんと増していくでしょう。
それはとても魅力的な「世界」です。
人類はその「別の世界」の誘惑に勝てるほど、強い意志をもってはいません。
それに勝てるほどの力をもっているなら、世間にこんなにもダイエット商品と腹筋マシンがあふれかえってはいないでしょう。
ですから、この流れはどんどんと加速していくはずです。
バズワードにそって言えば「メタバース」はよりリアルになり、より増えていくということです。
今は「バーチャルリアリティって帰ってこられなさそうだから怖い」と言って避けている人も、やがてはその誘惑に勝てないときがくるかもしれません。
「別の世界」に足を踏み入れざるをえない瞬間がくる・・・。
そのときのためにも、あらかじめ「世界間移動力」を備えておくことは必要だと私は考えています。
こなければこないでいいのですから、備えておくに越したことはありません。
┃メタバース時代に向けた親の新たな役目
これからは、親にも「世界間移動力」が求められるでしょう。
我が子が「別の世界」に振りまわさないためはどうしたらいいか?
それは、親が「別の世界」を上手に活用している姿を子供に見せるのがもっとも効率的ではないでしょうか。
お金の教育がようやく子供にもされるようになってきましたが、同じように「世界」の上手な使い方を子供は知っておく必要がある。
当面、それは親の役目になるでしょう。
そこで必要になるのが「世界間移動力」です。
これは「リアルの世界が一番素晴らしいんだから、必ずそこに戻ってこれるようにしよう!」と言っているわけではありません。
あくまでも「世界」と「世界」を移動する能力であり、「バーチャルの世界からリアルの世界に帰還する力」ではないのがポイントです。
だってこの先、「別の世界」にいながら「リアルの世界」の体が栄養をとったり運動することができる時代も来るかもしれませんからね。
そうすれば、わざわざ「リアルの世界」に戻ってくる必要もなくなるでしょう。
しかし、それはかなり先の時代の話でしょうし、そんなのイヤだなぁと思う人もいますよね。(私もイヤです)
だから当面は、「別の世界」と「リアルの世界」を行き来する能力を高めればいいと思います。
また、「世界間移動力」とは、どの「世界」でもうまくやっていける能力ではありません。
それは世界間適応力とでも言いうるまた別の能力でしょう。
アダルトチルドレンと自覚されている方なら、「それは自信ない」と思うのではないでしょうか。(私も、まったく自信がありません)
一方・・・。
「世界間移動力」は「世界を使い分ける力」と言えると思います。
もっと言えば、そのための「慣れ」みたいなものだと私は考えています。
慣れるためには、体験するしかありませんよね。
体験してはじめてわかることがたくさんあります。
あなたも子供の頃、ゲームをしたこともない親から、
「そんなことばかりやって!」
と叱られたことはありませんか?
体験していない人の言葉に力はありません。
よくわかってもいないことを頭ごなしに否定するのは、我が子へのマナー違反でしょう。
だから、私たち親も、今のうちからほんの少しずつ、慎重に、「別の世界」に触れていくことは必要なのではないでしょうか。
┃マンガやアニメは危険じゃないの?
ゲームだけが、「危険」だとやり玉にあがりがちです。
それは、ゲームが「別の世界」(バーチャルリアリティ、メタバース)と相性がいいからでしょう。
だから、危険だと言われても理解しやすい。
しかし・・・。
「マンガ」や「アニメ」に依存して生活が破綻する人も、じっさいにいます。
そして、「別の世界」を創るテクノロジーが進めば、これからは「マンガ」や「アニメ」も「ゲーム」と同じ土俵にあがってくるかもしれません。
なぜなら「マンガ」や「アニメ」の物語に自分も出演して「別の世界」で活躍することが可能になってくるからです。
「リアルの世界」に嫌気がさしている人に、そのようなサービスが提供されたら・・・。
やはり、充分に育っていない「世界間移動力」を奪われてしまう人が出てきてしまう可能性はありうるでしょう。
決して、ゲームだけを「ゲーム脳!」と特別に危険視する時代ではなくなってきているということですよね。
そのような時代の流れを、世間の常識に左右されず冷静に見極めていくこと。
それが、お子さんのために必要な親の役目であることは、言うまでもありません。
┃まとめ ~ユビキタスコンピューティングなんて誰も言わなくなった~
今から20年くらい前。
ユビキタスコンピューティングという言葉が流行っていました。
「どこにいてもネットワークがつながってコンピューターが使える」といった意味です。
スマホと5Gの登場で、それはいまや当たり前のことになりました。
今さら「これってユビキタスコンピューティングだよね」などと口にする人はいません。
つまり当たり前になれば、それはもういちいち騒がれなくなる。
社会に定着すれば、その特別感は忘れられていくということです。
現在言われているVR(バーチャルリアリティ)やメタバースも同じでしょう。
今は、
「VRゲームは危険!」
「メタバースゲームは危険!」
と特別視されていますが、今後、それが当たり前になって騒がれなくなる時代がくるのではないでしょうか。
なぜなら、くり返しになりますが、私たち人間は臨場感豊かな「別の世界」の誘惑には勝てないからです。
だからと言って、VR・メタバースを推し進める人たちが、我が子の安全を保障してくれるわけではありません。
かといって、新しい技術から我が子が取り残されたら、親としてそれもかわいそうだと感じるでしょう。
ですので、新しい技術が「当たり前」になっていくときこそ、まずその時代の流れをしっかり把握しておくことが、我が子のためにできる親の「たしなみ」なのではないでしょうか。
アダルトチルドレンの子育てを支える会会長
生きづらさ専門カウンセラー
しのぶ かつのり